棚卸で差異が出たあと、原因が分からなくて止まる。数え間違いなのか、入出庫のタイミングなのか、単位の読み違いなのか。
切り分けられないのは、数える前に決めていないからだ。決めるのは3つ。何時時点の在庫を数えるか、数える単位は何か、帳簿と現物のどちらから当たるか。この3つが決まっていれば、差異が出たときに原因の候補が絞れる。
以下の計算は、2026年9月21日にMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で行った。120品目のデータは式を確かめるために作った架空のものだ。会計上の処理は扱っていない。
数え終わってから決めると、切り分けられない
棚卸の差異は、複数の原因が混ざって1つの数字になる。現物を数え違えた分、締めの前後で動いた分、単位を読み違えた分、そもそも記録されていない分。表に出るのは合計だけだ。
数え終わったあとで原因を追おうとすると、材料がない。何時時点で数えたのかが記録されていなければ、締めの前後で動いたかどうかも確かめられない。
先に決めておくと、差異が出た時点で候補が減る。締めの時点を記録してあれば、その前後の入出庫の伝票を見るだけで一致するかが分かる。
何時時点の在庫を数えるのか
いちばん抜けるのがここだ。9月30日の在庫、とだけ決めて数え始める。
決めるのは日付ではなく時点になる。9月30日の終業後なのか、10月1日の始業前なのか。この2つの間に夜間の入荷があれば数が変わる。
同時に、数えている間の入出庫をどう扱うかも決める。止めるのが一番確実だが、止められない現場もある。その場合は、数えたあとに動いた分を伝票で戻す。だから、数え始めた時刻と数え終わった時刻を棚卸票に書かせる。
出荷待ちで場所に置いてある分、検品前で受け入れていない分、外注に出している分。この3つは扱いを先に決めておく。数える人が現場でその場で判断すると、人によって違う扱いになる。
単位を決めないと、差異金額が130倍変わる
箱に12個入っている部品を、1と書いたとき。1箱なのか1個なのか、票からは分からない。
3品目を箱数で書いたまま処理した場合と、個に直した場合で計算した。箱のまま扱うと、この3品目の差異金額は80,500円。12を掛けて個に直すと10,514,000円になった。130倍だ。
どちらが正しいかは、票を見ても判断できない。書いた本人に聞くしかない。棚卸が終わってから1人ずつ確認して回ることになる。
だから、票に単位の欄を作る。空欄で提出させない。ケースとバラを両方扱う品目は、票の側に入数を印刷しておく。数える人に計算させない。
現物から数えると、帳簿にあって現物がないものが出ない
現物を見て票を起こす方式だと、そこに無いものは票が起きない。帳簿に10個あるのに棚が空なら、票は1枚も出ない。
出ないものは、集計に現れない。数え漏れなのか、本当に無いのかを区別できないまま終わる。
防ぐには、帳簿の一覧を先に出して、そこに実地の数を書き込む形にする。数がゼロなら、ゼロと書く。空欄とゼロを区別する。
両方向で数えると、この種類の差異が拾える。120品目で試した結果がこれだ。
| 見たもの | 件数 |
|---|---|
| 差異のある品目 | 21 |
| 帳簿がゼロで現物があった | 2 |
| 帳簿があって現物がゼロだった | 1 |
帳簿がゼロで現物があった2件は、入荷の記録が漏れている。帳簿があって現物がゼロの1件は、出荷の記録が漏れているか、現物が無くなっている。どちらも数量の突き合わせだけでは原因が違う。
検出はCOUNTIFSで足りる。
=COUNTIFS($帳簿数量,0,$実地数量,">0")
=COUNTIFS($帳簿数量,">0",$実地数量,0)
差異は全部追わない。上位10件で98.7%だった
21件の差異が出たとき、全部の原因を追うと時間が足りない。金額で並べ替えると、追う件数が決まる。
120品目の差異金額を絶対値で合計したら554,220円だった。帳簿の在庫金額は12,393,510円なので、4.47%にあたる。
このうち、絶対値の大きい上位10品目の合計は546,800円。全体の98.7%を占めていた。残りの11件を全部調べても、動くのは1.3%にしかならない。
上位10件の合計: =SUMPRODUCT(LARGE($絶対値,ROW(INDIRECT("1:10"))))
占める割合: =ROUND(上位10件/全体*100,1)
金額の大きい順に追う、という決め方を先にしておく。棚卸の日に決めようとすると、どれも気になって全部追うことになる。何件まで追うか、いくら以上を追うかを、数える前に紙に書いておく。
差異の集計そのものは在庫のSUMIFSの記事の形で出る。品番の表記がぶれていると集計が合わなくなるので、票の品番は帳簿から印刷したものを使う。
差異の原因を5つに分けて記録する
追った差異は、原因を票に書き残す。翌年の決め事がここから出てくる。
区分は5つで足りる。数え間違い、締めの前後の動き、単位の読み違い、記録漏れ、原因不明。迷ったら原因不明に入れて、あとで減らしていく。
票に区分の列を作れば、集計はCOUNTIFとSUMIFだけで出る。
件数: =COUNTIF($原因,$区分)
金額: =SUMIF($原因,$区分,$差異金額の絶対値)
21件の差異に区分を入れて集計してみると、件数と金額で順位が入れ替わる形になる。架空の割り振りでは、数え間違いが6件で件数の最多になった。金額では、5件しかない締めの前後が323,660円でいちばん大きい。単位の読み違いは5件あるが24,780円にとどまる。
件数だけ見ていると、数え間違いを減らす対策に時間を使うことになる。金額で見ると、締めの時点を決め直すほうが効く。どちらを直すかは金額で決める。
原因不明の割合も見る。これが減らないうちは、票に書かせる項目が足りていない。時刻や単位の欄を足すと、翌年は特定できる側に移る。
数える前に配るもの
現場に配るのは4つだ。
帳簿の一覧を印刷した票。そこには品番、品名、保管場所、単位、入数まで入れる。数量の欄だけ空にしておく。
場所の割り振り表。誰がどの棚を数えるか。抜けと重なりを防ぐために、棚の番号で割る。人で割ると、境目の棚が2回数えられるか、誰も数えないかのどちらかになる。
判断に迷ったときの扱いを書いた1枚。出荷待ち、検品前、外注中、破損品。この4つをどうするかだけ書いてあれば足りる。
最後に、開始と終了の時刻を書く欄。票の上部に置く。あとで伝票と突き合わせるときに使う。
チェックリストにして配りたくなるが、項目を増やすと読まれない。絞り方はチェックリストの作り方の記事に書いた。
踏んだ失敗
締めの時点を決めずに数えたことがある。9月30日中に数える、とだけ伝えた。午前に数えた棚と午後に数えた棚があり、その間に出荷が2件あった。差異が出たが、出荷のせいなのか数え間違いなのか分からず、翌日にもう一度数えた。
単位の欄を作らなかったこともある。箱で数える品目とバラで数える品目が混ざり、集計の桁がおかしくなった。気づいたのは合計金額が前月の3倍になっていたからで、気づかなければそのまま報告していた。
現物から票を起こす方式でやっていた年は、帳簿にあって棚に無いものが見つからなかった。翌年に帳簿側から当たる形に変えて、4品目が出てきた。3年前に出荷した記録が漏れていたものが含まれていた。
差異を全件追おうとして、夕方まで終わらなかったこともある。金額の小さいものばかりに時間を使い、いちばん大きい1件の確認が最後になった。順番を金額順にするだけで、その日のうちに終わるようになった。
確認していないこと
会計上の処理は扱っていない。差異が出たときに評価損として計上するのか、原価に含めるのかは、税理士か会計の担当者に確認してほしい。
棚卸の頻度も確認していない。年1回にするか、月次で回すか、循環棚卸にするかは、扱う品目数と金額で変わる。
バーコードやハンディ端末を使う方法も試していない。ここで書いたのは、紙と表計算で回す場合の決め方だ。在庫の記録そのものの持ち方は在庫管理表のテンプレートに分けて書いた。
上の120品目は式を確かめるために作った架空のもので、差異の割合や上位10件が占める割合に一般的な意味はない。自分の棚卸の結果に同じ式を当てて、自分の数字を見てほしい。



