昇給があったから月額変更届を出す、という覚え方だと出しすぎる。条件は3つあって、全部そろわないと該当しない。
5人で判定した。該当したのは2人で、残り3人は別々の理由で外れた。日数が足りない人、2等級に届かない人、そして固定的賃金は上がったのに等級が下がった人だ。
以下の要件は、2026年9月21日に日本年金機構の随時改定のページで確かめた。等級は同機構の厚生年金保険料額表から取り、計算はMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で行った。個別の判断は所轄の年金事務所に確認してほしい。
3つの条件
年金機構のページには、次のすべてに該当する場合に随時改定を行うと書かれている。
1つ目は、昇給または降給等により固定的賃金に変動があったこと。2つ目は、変動後3か月の平均と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差があること。3つ目は、変動後の3か月とも支払基礎日数が17日以上であること。特定適用事業所の短時間労働者は11日以上になる。
改定は、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目からだ。4月に昇給したなら7月に改定される。
適用の期間も決まっている。6月までの改定は当年8月まで、7月以降の改定は翌年8月までだ。
固定的賃金に当たるもの
何が変わったら1つ目の条件を満たすのか。年金機構のページに例が並んでいる。
昇給と降給。給与体系の変更で、日給から月給に変えるような場合。日給や時間給の基礎単価の変更。請負給や歩合給の単価の変更。住宅手当のような固定的な手当の追加や変更。継続して3か月を超える一時帰休による休業手当の支給と、一時帰休が解消して通常の報酬に戻った場合。
残業手当は入っていない。残業が増えて報酬が上がっても、それだけでは随時改定にならない。
固定的賃金が上がったのに等級が下がったら該当しない
3つ目の条件が抜けやすい。年金機構のページにはこう書かれている。固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため標準報酬月額が下がる場合は、随時改定の対象外になる。逆に、固定的賃金が下がったのに非固定的賃金が増えて上がる場合も対象外だ。
つまり、変動の向きと等級の向きが一致していなければならない。
手元の例で計算した。従前の標準報酬月額が300,000円で19等級だった人が、4月に基本給を上げた。ところが残業が減って、4月から6月の平均は264,667円になった。17等級だ。2等級下がっている。
2等級以上の差はあるし、日数も満たしている。それでも該当しない。固定的賃金は上がったのに、等級は下がっているからだ。
この判定を式にするとこうなる。
=IF(OR(AND(変動="上がった",等級の差<0),
AND(変動="下がった",等級の差>0)),"向きが逆で該当しない","該当")
判定を1本の式にする
3つの条件を順番に見る形で書く。
=IF(MIN(3か月の日数)<17,"日数が足りない",
IF(ABS(等級の差)<2,"2等級に満たない",
IF(OR(AND(変動="上がった",等級の差<0),AND(変動="下がった",等級の差>0)),
"向きが逆で該当しない","該当")))
等級はVLOOKUPの近似一致で引く。報酬月額の下限を並べた列に対して、TRUEで検索する。
=VLOOKUP(報酬月額,等級表!$下限:$等級,3,TRUE)
等級表は年金機構の保険料額表から転記する。厚生年金は1等級の88,000円から32等級の650,000円まで32段ある。下限と上限の列をそのまま貼れば、近似一致で引ける。
3か月の平均は端数を丸める。
=ROUND(AVERAGE(4月:6月),0)
5人で判定した結果
同じ表に5人入れた。
従前200,000円の14等級だった人が昇給して、3か月平均が261,333円の17等級になった。差は3等級で日数も満たす。該当する。
同じ14等級から昇給したが、平均が214,000円の15等級にしかならなかった人は、差が1等級なので該当しない。
平均は261,333円で17等級になったが、5月の支払基礎日数が14日だった人がいる。差は3等級あるのに、日数で外れる。
固定的賃金は上がったのに2等級下がった人が、上に書いた例だ。
従前300,000円の19等級だった人が降給して、平均238,000円の16等級になった例は該当する。差が3等級で、向きも一致している。
5人のうち該当したのは2人。外れた3人は、日数、等級差、向きと、それぞれ違う理由だった。1つの条件だけ見て判断すると、どれかで間違える。
2等級動かすには、月3万円前後の増額が要る
昇給の額を決める段階で、随時改定になるかどうかの見当を付けられる。等級表から逆算するだけだ。
=2等級上の等級の下限-従前の標準報酬月額
5つの水準で計算した。従前200,000円の14等級なら、2等級上の16等級の下限が230,000円なので30,000円の増額が要る。260,000円の17等級でも30,000円、300,000円の19等級でも30,000円。360,000円なら35,000円、440,000円なら45,000円になる。
割合でいうと、どの水準でも10%前後だ。200,000円の人で15.0%、440,000円の人で10.2%。
つまり、月1万円や2万円の昇給では2等級動かないことが多い。3万円を超えたあたりから、随時改定を疑う。
ただし、これは従前の報酬がその等級の真ん中あたりにある場合の数字になる。等級の上限に近い位置にいる人なら、もっと少ない増額で2等級動く。正確には1人ずつ計算する。
昇給の一覧から、対象者を絞る
順番を決めておくと、毎月の確認が短くなる。
固定的賃金が変わった人の一覧を先に作る。給与計算のソフトから基本給と固定手当の変更履歴を出せるなら、それを使う。手作業なら、昇給や手当の変更を決裁した記録から拾う。
この一覧に、変動月、変動の向き、従前の標準報酬月額の4列を入れる。ここまでが入力だ。
3か月分の報酬と支払基礎日数は、変動月から3か月たってから埋める。4月変動なら6月の給与計算が終わった時点で判定できる。7月改定なので、7月の保険料を控除する前に間に合う。
判定の列が「該当」になった人だけ、月額変更届を作る。該当しない人も一覧には残す。翌年に同じ人が昇給したときに、前回どうだったかが分かる。
定時決定との関係
7月から9月に随時改定が予定されている人は、算定基礎届の対象外になる。4月の昇給で7月改定になる人は、7月の算定基礎届から外す。
両方出してしまうと、どちらが有効か分からなくなる。算定基礎届を作る前に、4月から6月に固定的賃金が変わった人の一覧を作る。対象者の絞り方は算定基礎届の記事に書いた。
改定後の標準報酬月額は、賞与の保険料には関係しない。賞与は支給額そのものから標準賞与額を出す。こちらは賞与支払届の記事に書いた。
踏んだ失敗
昇給した人を全員リストアップして、そのまま月額変更届を出していた。2等級に届かない人の分まで出して、年金事務所から返された。
支払基礎日数を見ていなかったこともある。月給制で欠勤控除がある人は、欠勤が多い月に17日を割ることがある。3か月のうち1か月でも足りなければ外れる。日数の数え方は算定基礎届と同じで、給与の形で変わる。
向きの条件を知らずに、固定的賃金が上がった人の等級が下がったケースを届け出たこともある。等級が2つ動いているので該当すると思った。残業が減ったことが原因で、固定的賃金の変動とは関係がなかった。
4月昇給を4月から改定だと思って、4月分の保険料から変えてしまった年もある。改定は4か月目の7月からだ。3か月分を直して還付の手続きをした。労働時間そのものの集計は残業の割増の記事に分けて書いた。
確認していないこと
上の判定は厚生年金保険の等級表で計算している。健康保険の等級は段の数が違うので、同じ報酬でも等級の差が変わることがある。どちらで判定するかは年金事務所に確認してほしい。
上限と下限の等級にいる人の扱いも確認していない。年金機構のページに例外があると書かれているが、条件を読み切れていない。
年間報酬の平均で算定する随時改定の仕組みもあると案内されているが、条件は確認していない。業務の性質上、特定の時期に報酬が偏る職場は該当する可能性がある。
一時帰休が絡む場合の判定も扱っていない。継続して3か月を超えるかどうかで扱いが変わる。
出典(2026年9月21日確認): 日本年金機構「随時改定(月額変更届)」、同「厚生年金保険料額表」。



