労働条件通知書で必ず書面にするのは、労働基準法施行規則第5条の第1号から第4号までだ。第4号の2から第11号までは、定めがあるときに明示すればよく、書面でなくていい。
その第1号から第4号の中で、昇給だけが外れている。第5条第3項が「第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)」と書いている。昇給は明示する義務はあるが、書面で渡さなくてよい。
以下、条文はe-Gov法令検索、2024年4月からの変更は厚生労働省のリーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」(2024年9月)で2026年9月22日に確かめた。項目の数はMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で数えている。
書面で渡すのは6つの号だけ
施行規則第5条第1項が並べているのは、第1号、第1号の2、第1号の3、第2号から第4号、第4号の2、第5号から第11号で、数えると14の号になる。
このうち書面で渡すのは第1号から第4号まで。号の数でいうと、第1号、第1号の2、第1号の3、第2号、第3号、第4号の6つだ。ここから昇給を除く。
残りの第4号の2から第11号までの8つは、使用者がこれらに関する定めをしない場合には明示そのものが要らない。退職手当、臨時の賃金と賞与、食費や作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰と制裁、休職の8つになる。
定めがあるときでも、書面ではなく口頭でいい。退職金の制度があるのに通知書に書いていない、という状態は違法ではない。ただ、あとで揉めるのは決まってここなので、うちは書ける範囲で書いている。
契約の種類で数が変わる。無期なら13、無期転換の更新なら17
号をそのまま並べても使いにくいので、実際に書く項目に割って数えた。第1号の3は「就業の場所」「就業の場所の変更の範囲」「従事すべき業務」「業務の変更の範囲」の4つに分かれる。全部で25項目になる。
契約の種類ごとに数えると、期間の定めのない契約を結ぶときが13項目、うち書面が12。有期契約を結ぶときと更新するときが15項目、うち書面が14。無期転換の申込権が発生する更新のときが17項目、うち書面が16。これとは別に、定めがあれば要る項目が8つある。

数が動くのは、有期のときだけ要る項目と、無期転換のときだけ要る項目があるからだ。配った表では契約の種類を選ぶと、その契約で要るものだけに印が出る。
2024年4月に増えた4つは、明示するときが違う
厚生労働省のリーフレットが挙げている4つは、それぞれ明示するタイミングが違う。
就業場所・業務の変更の範囲は、全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時。無期の人にも要る。
更新上限の有無と内容は、有期労働契約の締結時と更新時。通算契約期間または更新回数の上限のことだ。
無期転換申込機会と無期転換後の労働条件は、無期転換申込権が発生する契約の更新時。リーフレットの注に、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も更新する場合は、更新のたびに明示が必要と書いてある。1回出して終わりではない。
変更の範囲というのは、将来の配置転換などで変わりうる就業場所と業務の範囲を指す。いま何をしているかではなく、どこまで動かす可能性があるかを書く。ここを広く書くと配置転換はしやすくなるが、採用のときに説明した話と食い違うと、あとで問題になる。
本人が希望すればメールでもよい。希望していなければ書面
第5条第4項が渡し方を決めている。原則は書面の交付。ただし本人がその方法を希望した場合には、FAXを利用してする送信か、電子メール等の送信でもよい。
電子メール等には条件が付いている。条文は、その記録を出力して書面を作れるものに限る、としている。本文に書いて送るのでも、PDFを添付するのでもいいが、出力できないものは駄目だ。
見落としやすいのは「労働者が希望した場合」という前提のほうだ。会社の都合でメールにすると、書面の交付をしていないことになる。希望を口頭で聞いただけだと残らないので、うちは通知書のやりとりの中で希望の有無を書かせている。
書いたことが事実と違えば、即時に辞められる
労働基準法第15条の第2項と第3項に、明示した条件が事実と違ったときのことが書いてある。
第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できるとしている。予告も何も要らない。
第3項がその先だ。就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費を負担しなければならない。転居を伴う採用で条件が違っていたら、帰りの旅費まで会社が持つ。
この2つは条文の存在自体があまり知られていない。求人票と通知書の条件がずれたまま採用すると、ここに当たる。雇用保険の資格取得届の添付書類で労働条件通知書を求められることもあるので、書いた内容は残る。
更新上限を新しく設けるなら、理由を先に説明する
2024年4月からは、明示とは別に説明の義務も増えた。リーフレットが挙げているのは2つだ。
1つ目は更新上限の新設と短縮。最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合と、最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合は、その理由を有期契約労働者にあらかじめ説明することが必要になる。あらかじめ、というのは更新上限を新設・短縮する前のタイミングを指す。
2つ目は無期転換後の労働条件を決めるとき。就業の実態に応じて、正社員等とのバランスを考慮した事項について説明するよう努めなければならない。こちらは努力義務だ。業務の内容、責任の程度、異動の有無や範囲が例に挙がっている。
更新上限を書くこと自体は義務だが、書けば自由に打ち切れるわけではない。リーフレットにも、無期転換ルールの適用を免れる意図をもって無期転換申込権が発生する前の雇止めを行うことは望ましくない、と注が付いている。
モデルの通知書には、変更の範囲の欄が作ってある
厚生労働省がモデル労働条件通知書を出している。一般労働者用で常用と有期雇用型に対応した4ページのものだ。2024年の改正に合わせて欄が足されている。
就業の場所の行には「(雇入れ直後)」と「(変更の範囲)」の2つの欄が並んでいる。従事すべき業務の内容も同じ形だ。片方だけ埋めて出すと、変更の範囲の明示をしていないことになる。
契約期間の下には更新上限の欄がある。「更新上限の有無(無・有(更新 回まで/通算契約期間 年まで))」という形で、回数と年数のどちらでも書ける。両方を書いてもいい。
無期転換の欄はその下だ。通算5年を超える有期契約を結ぶときに書く部分で、無期転換したあとの労働条件がこの契約から変わるかどうかを「無・有(別紙のとおり)」で選ばせる。変わるなら別紙を付ける。
自社の様式を使っているなら、この3か所が入っているかを見る。古い様式のまま回している会社は、変更の範囲の欄が丸ごと無い。
通知書を作る順番
うちでは、契約の種類を決めてからチェックリストを開く。無期か、有期か、更新か、無期転換の権利が出る更新か。ここを先に決めないと、要る項目が決まらない。
印が出た項目を上から埋めて、書面の分だけを通知書に載せる。定めがあれば要る8項目は、就業規則の該当する条を指す形にしている。全部を通知書に転記すると、就業規則を直したときに両方を直すことになる。
社会保険と雇用保険の手続きは、この通知書ができてから動く。退職のときに逆から見る書類は退職者が出たときの手順にまとめた。被扶養者の認定で労働条件通知書を添えることになったので、採用のときに作ったものがそのまま使えるかどうかを見ておく。時給を年の途中で上げるなら、そこで巻き直す。
なお、2026年9月22日より後に施行される改正があるかどうかは確認していない。厚生労働省のページは2024年9月の版のままだったが、年度が変わる前にはもう一度見ることにしている。



