適格請求書に書く消費税額は、1枚につき税率ごとに1回だけ端数処理する。明細の行ごとに計算して端数処理し、それを合計するやり方は認められない。
25行の請求書で両方を計算した。行ごとに切り捨てると7,948円、税率ごとに1回だと7,957円。9円の差が出る。
以下の要件は、2026年9月21日に国税庁の消費税の軽減税率制度に関するQ&Aの問57で確かめた。計算はMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で行った。金額は式を確かめるために作った架空のものだ。
国税庁の書き方
Q&Aの答えはこうなっている。適格請求書の記載事項である消費税額等に1円未満の端数が生じる場合は、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う必要がある。根拠として消令70の10と基通1-8-15が挙げられている。
注記もある。一の適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められません、と書かれている。
処理の方法そのものは自由だ。原文は 切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができます となっている。
つまり、決まっているのは回数と単位であって、どちらに丸めるかではない。
式にすると2段階になる
順番が変わるだけだ。行ごとの税額を出してから足すのではなく、税抜を先に足してから1回だけ処理する。
税率ごとの税抜の合計: =SUMIF($税率の列,10,$税抜金額の列)
税率ごとの消費税: =ROUNDDOWN(その合計*0.1,0)
8%の行も同じ形で、SUMIFの条件を8に変えて*0.08にする。この2本が税率の数だけ並ぶ。
行ごとの税額の列を作ってはいけないわけではない。社内の確認用に持つのは構わない。請求書に印字する消費税額を、その列の合計から取らなければいい。
私は行ごとの列を残したうえで、請求書には税率ごとの1回処理の値を出すようにしている。2つの数字が並んでいれば、どちらを使っているかが目で分かる。
25行で9円ずれた
架空の請求書で計算した。10%が16行、8%が9行の25行で、税抜の合計は86,966円。
行ごとに切り捨てて合計すると、10%が4,999円、8%が2,949円で合わせて7,948円になる。
税率ごとに1回切り捨てると、10%が5,003円、8%が2,954円で7,957円。差は9円だ。
差が出る向きは決まっている。切り捨てを何回もすれば、そのたびに端数が消える。1回にまとめれば、消えるのは1回分だけだ。行ごとにやると、請求する側が損をする。
税込の合計は、税抜86,966円に7,957円を足して94,923円になる。
行数に比例して広がる
1枚で9円なら小さく見える。行数を変えて200回ずつ試した。
5行で平均1.5円、10行で3.9円、25行で10.9円、50行で22.8円、100行で46.6円、200行で93.9円。
1行あたり約0.5円になる。切り捨てで消えるのは0円から1円未満の間で、平均すると0.5円だからだ。行数を掛ければ、おおよその差が出る。
月に200行の請求書を50枚出すなら、1か月で4,700円ほど変わる。年に5万円を超える。小さい額ではない。
仕組みが分かっていれば、自分の請求書で概算できる。明細の行数を数えて、0.5を掛けるだけだ。
切捨てと切上げの差は2円しかない
もう1つ計算した。税率ごとに1回処理する前提で、方法を変えるとどれだけ変わるか。
切り捨てが7,957円、四捨五入が7,958円、切り上げが7,959円。全部で2円しか動かない。
税率ごとに1回しか処理しないので、当然そうなる。1回の処理で動くのは1円未満の端数だけで、税率が2つなら最大2円だ。
どの方法にするかで悩む必要はない、という結論になる。社内で1つ決めて、請求書の中で揃っていればいい。それより、処理を1回にすることのほうが9円分効く。
決めた方法は、請求書の様式と一緒に文書に残す。担当が変わったときに揺れる。
税込で明細を持つと、総額が11円増えた
明細を税抜で持つか税込で持つかでも結果が変わる。同じ25行で試した。
税込の単価を行ごとに切り上げて持ち、その合計から割り戻す形にした。割り戻した消費税は10%が5,003円、8%が2,954円で合計7,957円。税抜から出した額と一致する。
=ROUNDDOWN(税込の合計*10/110,0)
=ROUNDDOWN(税込の合計*8/108,0)
消費税額は同じになったが、請求の総額が違った。税抜から出した税込の総額は94,923円、税込を行ごとに切り上げて持つと94,934円。11円多い。内訳は10%で7円、8%で4円だった。
原因は、行ごとの切り上げが税込金額そのものに入っていることだ。消費税の欄は1回処理でも、明細の金額に端数処理が25回分入っている。
取引先の帳簿と1円単位で合わせたいなら、税抜で明細を持つほうが揃えやすい。税込表示が必要な商売なら、税込で持ったうえで割り戻しの式を1本にする。どちらでもいいが、混ぜない。
請求書の下に置く検算の行
作ったあとに確かめる行を3つ置く。目で見るより速い。
1つ目は、税率ごとの税抜の合計が全体の税抜と一致するか。
=IF(SUMIF($税率,10,$税抜)+SUMIF($税率,8,$税抜)=SUM($税抜),"合う","ずれ")
税率の列に10でも8でもない値が入っていると、ここでずれる。空欄や全角の数字が混ざるとこうなる。
2つ目は、税込の総額が税抜の合計と消費税の合計の和になっているか。印字する数字をすべて式で出していれば必ず合うが、どこかに手入力が残っていると合わない。
3つ目は、行ごとの税額の合計と、税率ごとに1回処理した額の差を出しておく。上の例なら9円と出る。この差が毎月どれくらいかを知っておくと、取引先から問い合わせが来たときに説明できる。
差が0のままなら、行ごとの計算を使ってしまっている可能性がある。0にならないのが正常だ。
この3行は請求書を出すたびに見る。締め日ごとにまとめて発行しているなら、発行の日を決めておく。締め日から支払日までの流れは支払予定表の記事に書いた。
1枚の書類に複数の請求書を書く場合
Q&Aには、1枚の書類に複数の適格請求書を合わせて記載する場合のパターンも載っている。
媒介者交付特例で他人の売上を合わせて1つの適格請求書に記載する場合は、自社の売上と他社の売上を区分して記載したうえで、税率ごとにまとめて1回端数処理することも可能と書かれている。
代理交付の場合は違う。自社の売上と他人の売上をまとめて端数処理することはできず、それぞれ税率ごとに区分して端数処理する必要がある、とある。
複数社の支払先に係る立替金精算書については、支払先ごとに区分して記載するほか、税率ごとにまとめて1回端数処理することも可能と書かれている。
同じ「1枚にまとめる」でも、根拠が媒介者交付特例か代理交付かで扱いが逆になる。自社がどちらに当たるかは、取引の契約で決まる。
踏んだ失敗
行ごとの税額の列を作って、その合計を請求書に印字していた。表計算で作ると、行ごとに計算するほうが自然な書き方になる。合計行でSUMを取れば終わるからだ。認められないと知ったのは、取引先から指摘されたときだった。
税込の単価から逆算していたこともある。税込1,100円の商品を10行並べて、それぞれ100円の消費税を計算していた。税抜で合計してから処理する形に直したら、端数の出る商品で合わなくなった。逆算のときは割り戻しの端数処理も1回にする。
端数処理の方法を担当者ごとに変えていた年もある。前任者は切り捨て、私は四捨五入で作っていた。1円の差が毎月出て、取引先の帳簿と合わなくなった。金額の小さい差ほど、原因を探すのに時間がかかる。突き合わせの手順は経費精算のチェックの記事に書いた式がそのまま使える。
確認していないこと
税込金額から消費税額を割り戻す場合の端数処理は、今回読んだ問57の範囲では確認していない。別の問に記載があるはずなので、税込で表示している請求書を出しているなら、そちらも読む。
返品や値引きがあったときの適格返還請求書の端数処理も扱っていない。
仕入側が仕入税額控除を計算するときの端数処理も扱っていない。請求書を出す側の話に限っている。
端数処理の方法を途中で変えてよいかも確認していない。変えるなら期の途中は避けて、文書に残しておく。請求書そのものの保存の要件は電子取引データの記事に書いた。
出典(2026年9月21日確認): 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問57(適格請求書に記載する消費税額等の端数処理)。



