月給が1万円上がったとき、1年の手取りは5万828円から10万7,000円増える。月に直すと4,236円から8,917円で、同じ1万円なのに2倍以上の開きがある。独身で扶養がなく、東京都の協会けんぽに入っている会社員として、年収300万円から1,200万円まで月給を1,000円ずつずらして2026年の決まりで数えた。
差を決めていたのは税率ではなく、健康保険と厚生年金の標準報酬月額の等級だった。上がった1万円が等級の境目をまたぐと、保険料は2万円分か3万円分まとめて上がる。そのせいで、月給28万9,000円の人は1,000円の昇給で手取りが年1万8,116円減る。
計算の決まりは年収の手取り早見表と同じで、どれも2026年10月19日に確かめた。社会保険料は協会けんぽの令和8年度の保険料率のページと東京支部の保険料額表、所得税は国税庁の源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)とタックスアンサーのNo.1410「給与所得控除」、住民税はe-Gov法令検索の地方税法で見た。等級が決まる時期は日本年金機構の定時決定のページと随時改定のページによる。
計算はPythonで書き方を変えて2通り作り、月給19万円から110万円を100円刻みにして、昇給1,000円、5,000円、1万円、2万円と40歳以上かどうかを掛け合わせた7万2,808件を突き合わせた。不一致は0件だった。
昇給1万円で手取りはいくら増えるのか。年収帯ごとに多い人と少ない人を並べた
昇給前の月給を1,000円刻みで動かし、1万円上がった1年と上がる前の1年の手取りの差を出した。保険料の等級も上がった額で決まり直したあとの1年で比べている。
| 昇給前の年収 | 1年の手取りの増え方 | 月に直すと |
|---|---|---|
| 300万円台 | 75,844〜107,000 | 6,320〜8,917 |
| 400万円台 | 61,504〜105,100 | 5,125〜8,758 |
| 500万円台 | 59,204〜105,100 | 4,934〜8,758 |
| 600万円台 | 50,928〜100,200 | 4,244〜8,350 |
| 700万円台 | 50,904〜87,000 | 4,242〜7,250 |
| 800万円台 | 66,308〜87,000 | 5,526〜7,250 |
| 900万円台 | 65,908〜83,300 | 5,492〜6,942 |
| 1,000万円台 | 58,972〜83,300 | 4,914〜6,942 |
| 1,100万円台 | 58,948〜79,700 | 4,912〜6,642 |
金額の単位は円。どの行も、多いほうは等級が変わらなかった人、少ないほうは等級が1つ上がった人だ。年収300万円台なら、月給29万円が30万円になった人は月8,892円増え、30万円が31万円になった人は6,345円しか増えない。年収が同じ帯でも、1万円の行き先しだいで月2,500円以上違う。
全体で一番少なかったのは、月給62万8,000円が63万8,000円になった人で、年5万828円だった。1万円のうち半分以上が手元に残らない。一番多かったのは月給27万円台の人の10万7,000円だ。
800万円台の少ないほうが、700万円台より1万5,000円以上多いのは逆に見える。厚生年金の標準報酬月額は65万円で頭打ちになり、月給63万5,000円より上では等級をまたいでも健康保険料しか上がらないからだ。年収1,000万円前後で社会保険料が年収ほど増えない理由は年収1,000万円の手取りの記事に数えた。
同じ1万円で増え方が2倍違うのは、等級の境目をまたぐかどうか
健康保険料と厚生年金保険料は、月給そのものではなく標準報酬月額に料率を掛けて決まる。協会けんぽの東京支部の表では、月給29万円以上31万円未満は標準報酬月額30万円、31万円以上33万円未満は32万円というように、月給25万円から37万円までは2万円ごと、39万5,000円から上は3万円ごとに区切られている。
月給30万円の人の保険料は、健康保険料が14,775円、子ども・子育て支援金が345円、厚生年金保険料が27,450円だった。31万円になると等級が32万円に上がり、15,760円、368円、29,280円になる。雇用保険料の50円を足して、月2,888円の増加だ。1万円の昇給のうち3割近くが保険料に回る。
月給29万円が30万円になった人は等級が30万円のまま変わらず、増える保険料は月給に掛かる雇用保険料の50円だけになる。残りに所得税と住民税がかかって、手取りは月8,892円増えた。
等級の幅が2万円なら、1万円の昇給の2回に1回は境目をまたぐ。月給25万円から100万円を1,000円刻みで数えると、751通りのうち236通り、31%で等級が上がった。自分の月給が境目の近くにあるかは、保険料額表の「報酬月額」の列で確かめられる。
40歳から64歳は介護保険料1.62%が加わる。等級をまたいだときの上がり方が大きくなり、全体で一番少ない人は年4万8,912円、月4,076円だった。
昇給したのに10月から手取りが減ったのはなぜか
等級をまたいだ人でも、保険料はすぐには上がらない。4月から6月の報酬を平均して9月分からの等級を決める定時決定があり、昇給はたいていそこで初めて保険料に入る。健康保険法第167条と厚生年金保険法第84条は、給与から引くのは前月の標準報酬月額に係る保険料と定めている。前月分を引く会社なら、9月分の保険料を引くのは10月の給与だ。
月給30万円が4月に31万円になった人を、月ごとに追った。4月から9月の給与では等級は30万円のままで、増えるのは雇用保険料50円と所得税だけになり、手取りは月9,542円増える。10月の給与から保険料が2,888円上がって、増え方は6,854円になる。2026年の所得にかかる住民税は2027年6月の給与から引かれ、そこで月508円上がって6,346円に落ち着く。
所得税は1年分の増え方を12で割った額で置いた。毎月の源泉徴収は月額表で決まるのでこの額とはずれるが、年末調整で1年分に合わせ直される。
随時改定で早く上がることもある。昇給した月から3か月の平均で等級が2つ以上上がると、4か月目の分から保険料が変わる。年収300万円以上の月給だと等級の幅は2万円以上あるので、1万円の昇給で2等級上がることはない。随時改定の条件は月額変更届の記事に書いた。
日本年金機構の標準報酬月額のFAQによると、報酬月額には通勤手当や残業手当も入る。4月から6月に残業が多い年は、昇給がなくても等級が上がることがある。平均する月の数え方は算定基礎届の記事にある。
1,000円の昇給なら、手取りが年に1万8,116円減ることがある
等級の境目のすぐ下にいる人は、昇給が小さいほど損をする。月給28万9,000円の人は標準報酬月額が28万円で、1,000円上がって29万円に届くと30万円の等級に移る。
| 昇給額(月) | 社会保険料 | 所得税 | 住民税 | 手取り(年) |
|---|---|---|---|---|
| 1,000円 | 34,116 | -1,400 | -2,600 | -18,116 |
| 2,000円 | 34,176 | -900 | -1,700 | -7,576 |
| 3,000円 | 34,236 | -500 | -900 | 3,164 |
| 5,000円 | 34,356 | 400 | 800 | 24,444 |
| 1万円 | 34,656 | 2,500 | 4,900 | 77,944 |
月給28万9,000円からの1年の増減で、金額の単位は円。1,000円の昇給で年収は1万2,000円増えるが、保険料が3万4,116円増える。保険料は所得から引けるので所得税と住民税は4,000円減るものの、差し引きで1万8,116円減った。
同じことは境目ごとに起きる。月給19万円から110万円を1,000円刻みで数えると、1,000円の昇給で年の手取りが減る月給は31通り、2,000円では54通りあった。3万円幅の等級では、39万2,000円から39万4,000円の人のように3,000円の昇給でも減る。5,000円の昇給で減る月給はなかった。
減った分がまるごと消えるわけではない。厚生年金の等級が2万円上がった1年は、日本年金機構の報酬比例部分の計算式の5.481/1000を掛けると、老齢厚生年金が年1,315円ほど増える。再評価率は掛けていない。病気で休んだときの傷病手当金も標準報酬月額で決まる。
665万5,556円をまたぐ昇給は、等級が変わらなくても増え方が6割になる
等級のほかにもう1つ段がある。2026年分の所得税の基礎控除は、給与だけなら年収665万5,556円を1円超えると104万円から67万円に下がる。
月給55万4,000円の人は年収664万8,000円で、1万円上がると676万8,000円になってこの線を越える。標準報酬月額は56万円のままで保険料は雇用保険料の600円しか増えないのに、所得税が5万2,100円増え、手取りは年5万6,600円、月4,717円しか増えなかった。月給55万5,000円から上がる人は、もう線を越えているので9万3,300円増える。この段の仕組みは手取り早見表の記事に書いた。
平均の率で見積もると、どちらの人にも当たらない
よく見かける見積もりは、昇給額から社会保険料15%を引き、残りに所得税5.105%と住民税10%を掛ける形だ。月1万円なら手取りは7,216円増える計算になる。年収300万円台の実際は8,892円か6,345円のどちらかで、7,216円の人はいない。保険料は等級で段になって上がるので、15%で均すと両方の人を外す。
もう1つは、給与所得控除を忘れることだ。年収180万円超360万円以下の人は、増えた収入の30%に給与所得控除がかかり、所得税と住民税は残りの70%から保険料を引いた額にしかかからない。360万円超660万円以下は20%、850万円以下は10%で、850万円を超えると控除は195万円で止まる。月給29万円の人で税率をそのまま1万円に掛けると、手取りの増え方は月8,447円になり、実際の8,892円より445円少なく出る。
私も最初は、1万円の昇給を年収の行に12万円足して早見表を読み替えればよいと思っていた。表は50万円刻みで、等級の境目の位置は行ごとにばらばらだ。たまたま境目をまたぐ行とまたがない行が交互に出て、500万円の行では月5,142円、550万円の行では8,333円と、年収が上がるほど増え方が減るように見えた。1,000円刻みで数え直して、年収ではなく境目までの距離で決まっているとわかった。
確かめていないこと
健康保険組合に入っている人の増え方は確かめていない。料率と本人負担の割合が組合ごとに違う。
賞与のある人は、賞与の保険料が標準賞与額で別に決まるので、表の額と変わる。賞与1回分の引かれ方はボーナスの手取りの記事に書いた。扶養や配偶者控除がある人の昇給は数えていない。
毎月の源泉徴収税額を月額表で出した値は確認していない。図の4月から9月の9,542円は、所得税を1年分の12分の1で置いた見積もりだ。1月と2月の健康保険料率が令和7年度の9.91%であることも入れていない。
住民税は東京23区の標準税率で計算した。上乗せしている自治体の額は確かめていない。
自分の年収で昇給前と昇給後を並べて試すなら、手取り計算に月給を2回入れると、同じ決まりで1円単位まで出る。



